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タイミングがあえば

例年になく暖かい今年の冬は、昔の厳しい寒に慣れた老人にとって
暖かすぎるらしい。
道であった知り合いのおじいさんが、手袋なしだったので、
「寒くないの?」と聞くと「春みたいだ!」と言っていた。

クリスマスに向けてあわただしくなってくると、私はなんとなく日本の
おおみそかを思い出す。
ごちそうを買いこみ、贈り物を準備するのに走り、
街で会う人々が口々に「よいクリスマスを!」と
言いあっているのは、おせちを準備して「よいお年を!」と言っているようだ。

美容院で働くパオラにとって、またはおもちゃ屋で働くアルマンドにとって、
このかき入れ時はうれしい時期でもなく、
土日もなしに働いているアルマンドは
「クリスマスなんかなくなってしまえば、万々歳」とぐちり、
美しく気飾りたい女性たちのカットとパーマに追われるパオラは、
24日の今日も朝7時から働いている。

家族行事でもあるイタリアのクリスマスは、日本のクリスマスにくらべて、
商業的な空気がいく分薄いけど、やっぱりプレゼントなどのことを考え始めると
義務的にお金を使うことになる。
幸いに、私の友人同士ではプレゼント交換もしないし、
ディーノの親族にも私が贈り物をする必要はない、
と暗に了解がある。
めいっこのシルヴィアだけには何か用意するけど、できれば
手で作ったものをあげようと思って、今年は彼女のセーターを
ほどいて編みなおしたマフラーをあげるつもりだ。
まださきっちょにつけるポンポンを作っていなくて、
今日の夜ご飯を食べた後に仕上げなければいけない・・。

「女の子だったらね、それでもいいけど・・」
とおいっ子が多いエウジェニオはためいきをついて、
「男の子は、手作りのものとかじゃなくってプレイステーションなんだよ・・」。
確かに、男の子に手編みの帽子などあげても、あんまり喜んでもらえそうにない。

イランの友達からもメリークリスマスのメールが届き、
さすがにイスラム教徒からそんなものが届くとおや、と思うが、
そういう私も仏教徒であった。
キリスト教関係の本を多く置いている本屋さんで、
「よいクリスマスを!」と私に言った奥さんが、
その後一瞬思い直したように「もし興味あるなら・・?」
とつけ足していた。

恋人の行事でもある日本のクリスマスと違って、
ここでは特に「クリスマス前に恋人を見つけなくちゃ」
というプレッシャーもない。
ただ、25日の昼を家族で一緒に時間を過ごすのが習わしだから、
家庭がうまくいっていないと、どうだろう。
ほとんどの人がおうちでクリスマスの昼ご飯を食べている
時に、レストランに行ったりするのも味気なさそうだ。

誰かひとりになってしまいそうな人がいれば、自分の仲間に加えてしまうのが
ブラでは普通だし、そうやって私もいつも「パオラのお姉さんの家族」とか
「トニーのお母さんのおうち」に加えてもらって、クリスマスに限らず、
ブラでひとりさびしい思いをしたことは全くない。

私の上階に住んでいるふたりのおばあさんは、二人とも未亡人でひとり暮しだ。
たぶん、2階のおばあさんは息子さんやお孫さんと集まって、
クリスマスのご飯を食べるのだろう。
でも3階のおばあさんは、自分のお子さんもいないし、
遠い親戚がトリノに住んでいるだけだから、
きっとひとりかもしれない。

ただ、さすがに3階のおばあさんを私の友達との夕食に加えるには
ちょっとカラーが違いすぎる・・。

24日の今晩は、映画館で夜中の12時半まで働くトニーを待つヴェスナと、
美容院疲れのパオラを加えて、
ディーノ宅で「軽く」ご飯を食べる予定だ。
かぼちゃ・鳥ひき肉・ねぎでご飯を炊いて、
蛸とじゃがいもをディーノが煮て、
それにイタリアのクリスマス菓子パネットーネを食べれば、
「軽く」と言ってももうおなかいっぱいだろう。
本当は24日の夜は魚を食べるのが、宗教的には正しいらしいけれど、
昨年生鮭をオーブンで焼いたら脂っこくて、胃にもたれたので、
「イブに魚」案は却下だ。

上階のおばあさんたちには、今日か明日にでも、
小さいクッキーを包んだものを届けることにした。
昔気質のピエモンテ人は、何か大げさなものをあげると
「おかえししなければ!」と気を使うから、
ごくわずかなものが良いだろう・・。

10月末から11月いっぱいは、親知らずのまわりが化膿して、
野菜スープやふやかしたパンばかり食べていた。
普段は飲まない抗生物質など飲んでも、
食欲を失くして痩せてきたので、意を決してイタリアで抜いてしまうことにする。
イタリアには「保険できく歯医者さん」と「個人の歯医者さん」と二種類あり、
保険できく歯医者さんはあまり技術的にあてにならず、
ほとんどの人が個人の所へ行く。
歯垢とりの掃除だけで1万円近く、
親知らずを抜いたら3万円はかかり、「歯の治療用の借金」が銀行でできるくらいだ。

「既に日本人の女の子の親知らずを抜いたことがある」という、希有なブラの
歯医者さんを紹介してもらい、会ってみると、若い。
それでも、30代始めにしては老成したかんじのフェデリコは、
ひと言ふたこと話しただけで「この人なら腕に間違いなし」
という信頼感を与え、私も不思議と落ち着いて抜歯に臨めた。

朝から親知らずを抜かなければいけないっていうのも、
若い男の子の職としては厳しいだろう。
夜遊びにも行けないし・・と当日の朝9時、私は、
「昨日はよく寝た? もしかして友達と夜飲みに行ったとか・・?」
と恐る恐るフェデリコに確認する。
「いや、昨日は疲れはてて、夜9時に寝ちゃった」と言うので、
それなら集中力も万全、と安心して診察台に登る。

覚悟はしていたけれど、横に向って生えている私の親知らずは、
簡単には抜けない。
麻酔をしてるから痛いわけではないけれど、やっぱり怖いので、
なんとか気を紛らすために、頭の中で、待合室の雑誌で見た
「あさりソースパスタ」の作り方をおさらいすることにする。

麻酔の注射を一本打ったあたりで、タマネギをみじん切りにし、麻酔がきいて
あごがしびれてきたあたりで、フライパンで炒め、歯肉にメスがはいって
いる時にはトマトソースを加え、同時にパスタをゆでるお湯を火にかける。
「ちょっとひっぱるけど、心配しないように」とフェデリコが言うのに
うんうん、と合図しながら、ソースに殻付きのアサリを加えて、パスタもゆで始める。
いや、抜歯にもっと時間がかかるなら、ゆで始めるのは早いかも?
長く口を開けている私を心配して、彼も「調子はどう?」と聞いてくるが、
それは私が聞きたいところだ。

「なかなか抜けないから、歯を切断するよ」と言われて、OKと合図すると、
ウイーンという音と共に、
フェデリコが力いっぱい親知らずを引っ張っている感触だけが、麻酔のきいた
口の中で感じられる。もうパスタゆでちゃえ。
1つひっぱり、2つひっぱり・・いったい
いくつの部分に歯を切断したのだろう?
もうソースも煮詰まってパスタもできてしまった。

その後、傷口を縫うのにまた時間がかかり、
サラダまで作るシュミレーションまでして、
やっと1時間の抜歯が終わった。

ただ、このパスタシュミレーションのおかげで、
長い手術もそう長くは感じられなかった。
その後の方が、ほっぺたはひきつり頭はくらくらし、
Ⅰ,2週間は体力消耗する。

日本の医療にもたくさん問題があるとはいえ、イタリアにくらべたら
先進国だろう。
ここでは、検査の内容によっては2、3ヶ月待ちのこともあるし、
お金がある人にだけ許される個人医には、
年金暮らしの老人や移民の人はほとんど行けない。私だって歯以外では
保険で効くお医者さんにしか行けない。

歯を抜いてすっきりしたところで思い返してみると、
2006年は、随分ゆっくりとしかコトが進んでいないような気が
していたが、終わってみるとちゃんと前に進んだことがわかる。
年初めに映画の助成金について交渉を始め、
最初はまるきりわからなかったその仕組みも、今ではほとんど事情がつかめた。
役所用語や書類用語にも慣れ、簡単なビジネスメールも書けるようになったし、
気がついてみれば、イタリア語の文法もあんなにめちゃくちゃだったのが
なんとか形になってきたではないか。大きな収穫は、
撮影した羊飼いが住んでいる国立公園との交渉が進んで、やっと協力体制に
入ってくれたことだろう。

「なんかどうもよくわからないけど、ごにょごにょやっていたら・・・
あれ!うまくいった!」ということがイタリアではよくあるような気がする。
それは「混沌の中をあきらめずに進め」のようにも言える・・。
最後にタイミングがあえば、一件落着。

昔、泊めてくれていたブラの友人宅の古いさびた鍵がどうしても
開かなくて、30分も「開かずのドア」の前で私は苦しんでいた。
彼女に言わせれば、
「こうやって鍵を穴の中で左右に少しづつ動かすでしょ・・
がちゃがちゃ、がちゃがちゃって、
それで”道が見えた!”って時にさっと開けるの!」
そんな苦労する前になんで鍵屋さんに行かないのか?ってことはさておき、
確かにその方法でタイミングが合うと、実に軽くドアは開くのだった。

羊飼い夫婦と11月の末にようやく会って、
映像についての残っていたプライバシー問題を解決し、
奥さんとトラクターの中でお昼ご飯を食べた。
暖かい秋とは言っても、羊とヤギの群れが草を食む草原では風が冷たい。
ピザパン、フォッカチャ、りんごパイを全部半分ずつにして、
バナナも分けあって食べた。
彼らを撮った3年前は私はイタリア語がほとんどできず、
そのことについて、「どうりで何にもわかんなかったワケだ」と
奥さんは笑っていた。
去年の夏、まだ小さい赤ん坊だったヤギの”グレゴリオ”は、
今群れの中で見るといっぱしの雄ヤギになっている。

12月末から1月にかけて日本に帰ることを決めると、
それに合わせて上映会の企画も入ってきた。
もう上映会なしで今回は帰国したい・・なんて内心怠けて思っていたのに、
ちゃんと日本語の字幕を入れる動機も、与えられてしまった。
日本でゆっくりおせち、ってだけでは駄目らしい。

三重県・伊勢で1月8日、新宿で21日にやる上映会の内容を貼付けておきます。
今まで短縮バージョンか字幕なしでしかお見せできなかった
「羊飼いといっしょに」にやっと字幕が入りましたので、
時間のある方、近辺に住んでいる方、今まで短縮版を見た方も、
どうぞいらして下さい。彼らのチーズもちょっと持って帰ります。

それでは(興味があれば)よいクリスマス+年末を!

脇山みのぶ

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上映会

●1月8日(月)12時〜14時半 
場所 ドーファンイーブル
参加費 3000円 予約制
(ランチ・映像+トーク・1ドリンク、チーズ付き)
住所 JR/近鉄伊勢駅前しんみち商店街入り口
   伊勢市宮後2−2−10ヒシダビル2階
tel 0596−23−7577
サイト http://homepage3.nifty.com/dauphin/

●1月21日(日)時間10:30〜15:30(上映開始11:00、13:30)
場所:インド家庭料理アブウ
東京都新宿区新宿1−23−16−101
丸の内線新宿御苑前駅・大木戸門口より3分
tel 03−3352−6331

参加費:1400円
羊飼いのチーズの試食+ドリンク(ワインまたは紅茶コーヒーなどノーアルコールのもの)付き
カレーを食べたい人にはキーマカレー(600円)があります。
(予約制ではありませんが、会場が小さいので、いらっしゃれる方は
脇山にご一報頂けると幸いです。(minobu@hako-house.com)

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コメント

 四歳になる孫娘にはリカちゃん人形をクリスマスにプレゼントしました。自分だけに贈り物は気が引けるのか、「プレゼントもらった?」と聞くので「なかったよ」と答えると「来年はね靴下を用意したらサンタさんがやってくるのよ」とアドバイスしてくれました。いつまでサンタの存在を信じてくれるのでしょうネ。
 イタリアのクリスマス菓子のバルットーネとは、日本の食パンを縦にしたようなスポンジ様の物で、ほとんどデコレーションのないのでしたかねー。スーパーマーケットの菓子コーナーで山積みされているのを見た記憶があります。
 我家でもささやかに都寿司を取り寄せ、それに茶碗蒸を添えてやりました。例年、次男坊の22日の誕生会を兼ねてやっています。
 家内が大丸デパートにケーキを予約していたのですが、取りに行くのを忘れ、夜中にデパートから電話で入りました。生ものなので、翌日取りに行くのではダメだそうです。結局破棄してもらいました。結構内の奥さんはのん気なんですヨ。
 今年のプレゼント金額が発表されていましたが、男子が6万円使うのに対し、女子はその半分程度でしたネ。
 異国の地で病気になるのは、けっこうストレスのたまる事でしょう?
私は歯が丈夫なほうなので、親知らずを抜歯したぐらいしか歯医者の経験はありません。歯医者にかかった時は私も何かイメージしよう、良いこと教わりました。私はスパゲッティの中でもコン・ボンゴレ・ヴェラーチは大好きなので、一度あなたの手料理を食べてみたいものです。
 姪が京都薬大を卒業してから、愛知歯科大に行き、今は香川で店を任されています。御転婆娘で、ある日突然に車が欲しくなり、黄色いスポーツカーを購入。でもオープンカーなので一度助手席に乗った者は二度と乗ろうとはしましん。髪がグチャグチャになるためです。
 「夕食です」の声がかかったので今日はこれでバイバイです。
 健康に留意し良い新年をお迎えください。

抜歯大変だったんだねえ。でもこれでパスタはばっちりだね。
私は前にMRI検査をした時に、機械がぶんぶんいってる中であの小説を映画にするなら…なんて脳内キャスティングをしたことがあります。
怖い時の気の紛らわせ方も人それぞれですな。

原さん、なおちゃん、コメントどうもありがとうです。
頭の中でパスタが作れたと言っても、
実際作れるかどうかは自信ありません・・。
特にこの山国ピエモンテでは味気なくて値のはるアサリしかなく、
私は一年に一回買うか買わないか・・
あさりの入った料理はほとんどやらないのです。
実際やる可能性が少ないからこそ、
頭の中のシュミレーションにおもしろみが
あるのかも、しれません。

クリスマスプレゼントに6万円とはすごい。
今年のシルヴィアへのプレゼントも一気に電子化していて、
ニンテンドーのDS(ですか?)とナルニア国物語のDVDと、音楽CDでした。
お人形で良かった8歳から、9歳になるとだいぶん違うのですね。
それでも、ポンポン付きのマフラーはとっても喜んでくれました。
では日本で!

脇山みのぶ


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