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2004年03月10日

書いてみましょうか

1週間に一回ぐらいがちょうどいいかしら、と思って
ためこんで書いていたのを、なおちゃんと国際電話で話していたら
「もっとちょこちょこ書いてみたら」とのことで、
も少しこまめに書いてみようかと思います。
でも今日だけだったりして。。

しかし、今日はマテオ(67歳)の記念すべき日なので、書いておいた方がいいかも。。

マテオは私に恋した67歳のおじいさんです。
おじいさんと呼ぶには67歳はまだ若いと私は思うのだけれども
マテオによると「ワシはもうとし」、明日には死ぬ、といつも言っています。

何年か前に奥さんを亡くしてひとりになったマテオは、絶望の日々を送っているのですが
朝はカフェでカプチーノ、昼は市の給食サービスを食べに集会所へ、
午後はおしゃべりをしにまたカフェへ、と日本の老人に比べたら社交の機会は多い生活を送っています。

そんなマテオと私はそのお昼ご飯給食サービスに私が顔を出した時に知り合ったのですが、、

何をどう間違ったのか、私のことが大変気に入って、毎日のように電話がかかってくるは、様々なプレゼントが届くは、大変な攻撃でした。

いつぞや山の温泉に行ったときは、マテオも私も風邪気味で調子が悪く、虫の居所が悪かったので、
あまりにも色々指図するイタリア人男のマテオに
「あんたの奥さんでも恋人でもないんだからほっといてよ!」と言い放って口げんかし、
その後無事に仲なおりしましたが、
今でもマテオは「ぼくらは口げんかまでしたんだ、はっはっは」とことあるごとにみんなに自慢しています。

イタリアでは、だんなさんと奥さんの愛情が深かった分だけ、残された方が苦しんでいるような気がします。マテオにいたっては精神的な支えであったマリア奥さんが亡くなったことで、全く指針を失ってしまったようです。

明るく、声も大きく、体格もいい、あだなが「フィオーレ(花)」の元パン職人、マテオですが、
10日間老人サークルに顔を出したかと思うと、10日間は家にこもる、という「うつ」状態らしく、
老人サークルの仲間たちも私に会うと「マテオは最近元気か、」と聞きます。。

そんなマテオが今日はがんばって私の仕事を手伝ってくれました。
上映会用の「羊飼い」の映像、チーズについての会話が山岳方言とイタリア語で話されているのですが、
私には全く手に負えないので、誰かに聞き取ってもらってそれを書き写しています。
階下に住む元高校教師のイレーネも、アイロンがけをしながらお茶をいれながら、耳にヘッドフォンをあてて必死で聞き取ってくれるのですが、全く疲れるらしく、ワンシーンやると「ふうっ」また明日、、ということになってしまいます。

ピエモンテ方言はフランス語とイタリア語が混じったような言葉で、表記するのも難しく、発音も言葉も標準イタリア語とは全く違います。
「カプラ(やぎ)」は「クラーベ」、「カッティーボ」(まずい)は「グラーメ」、おかげで私も少しづつピエモンテ方言をおぼえました。

マテオは全くのピエモンテ人なので、方言については問題ないのですが、
会話の聞き取りなんて息が切れる仕事を頼んでいいものかなあ、と思いました。
かといって、若い人やイレーネのような主婦はみんな忙しく、あまり時間のかかることも頼めません。
というわけで、「わしはもう何もしなくなった。。」とぼやくマテオに白羽の矢が当たったわけです。。

マテオ行きつけのカフェ「バルバブルー」に、夕方5時半待ち合わせるとマテオはもうチョコレートミルクを飲み終わって、1時間ほど時間をつぶしていた後だったらしく、
カフェの主人、エンリコがお待ちかねだよう、とからかいます。

エンリコはこれもまた変わり者で、50代半ばのくせにいつでも「今晩踊りに行こう」と私に冗談を言います。

チーズが浮かび上がる、子供が火をおこす、羊飼いの奥さんがだんなさんとのなれそめを話す、
全部のシーンを「ほっほー」とビデオカメラの中の映像をのぞきこみ、
「“スクルットーレ”とは木や石で何かを作るような人たちだ」ーーつまり彫刻家のことーーと私のわからない言葉は説明し、
「ノ・ン・プリ・オーキュ・パル・ティ!」といち音いち音私が書き取れるよう発音し、
疲れたらまた明日にしよう、という私の言葉も聞かず、全部のシーンを見ておおまかに言葉を起こしてくれたのでした。

途中でアペリティーボ(食前酒)の時間になり、人が入ってくると
「もっと静かなところじゃないと聞こえない」とヘッドフォンを頭にぼやいていましたが、
バルバブルーは街の中心から少しはずれにあるので、そうさわがしくもならず、
途中で私たちもノン・アルコールのアペリティーボを飲んで、夜7時半、全て終えました。

めでたしめでたし、後1週間はかかるかと思っていた聞き取りが、だいたいのところ終わったので
ちょっとうれしかった夜です。

それにしてもマテオは「こういう仕事は好きだ!子供に返ったような気がする!」
と言い、どういう意味?と聞き返すと「やったことがないことをするとわくわくする!」
とのこと。
「死んでしまったマリアのことを考えると脳が破裂しそうになる」という重い心理状態の中にいるマテオも、こういう気持ちになる時があるのだなあ、少なくとも一瞬でも、、
と思ったのでした。

帰ってきて、マテオの状態を知っている同居人パオラにそのことを話すと
「ついにマテオが登れる階段を見つけたわね」と。。

パオラ自身のお母さんも一人暮らし、やはりだんなさんを早くに亡くして
「ディプレッション」(うつ)になっています。

イタリアの老人問題はなかなか深刻なものがあります。
マテオが特別不幸なわけではなく、また特別幸福なわけでもなく、当たり前ながら色々な例があるのですが、3歩歩けば老人にあたる、というほど老人が多いブラ、これから日本以上に先が厳しいかも。。

なぜか今日は、会ったこともないマテオの息子さんまでからすてきなボールペンのプレゼントをもらいました。
「プラスチックのボールペン(日本の4色ゼブラ)を使っているミヌ(私の名前の短縮形)に、
せめてこのペンで書けば見た目が美しいだろう!」とのことでした。。
マテオはとっても見た目にうるさいんです。。

2004年03月04日

ちらしずしの夜 

ミラノへ行ってひといきついてから早2週間。
ミラノではいつもの宿で知り合った「あつこちゃん」とジャズを聞きにいって、日本だったら
8000円はするライブを3000円強で聞けることに感動しました。

みなさん、日本はまた寒くなったそうですがお元気ですか。
ブラもあれから大雪が降って「冬だ冬だ」とおお騒ぎした後に
3月4日の今日真っ青な空で一転「春」です。

秋にブラに来ていたアメリカ人のジェシカがうちに泊まりに来ていて
暮らしは少し変わりました。パオラと私の2人だったのが「3」になり、
少しの混乱と中くらいのはんざつと多くのヨロコビと。。

というわけでずっと書けずにいたというわけです。。

先週金曜日は、ついに映画祭実行委員長のルカ・ブッソを招いて
ちらしずしの「ますさんのかぼちゃ」上映会をしました。
(「かぼちゃ」は12月から作っていたチネマ・コルト・インブラ映画祭用の
短編ドキュメンタリー作品です。今までの日記を読んでいない人のために)
ルカ・ブッソは2年前に私が書いたブラの記事に「ぎょろりとした目の」
で登場する、気さくなお兄ちゃんです。彼自身も映画を作っている人なので
ルカに見せるのはなかなか緊張します。

「ちらしずし」はイタリアで作り慣れた一品となりましたが、
いったい何を魚でのせるのか、いつも迷います。
私としては「まぐろ」じゃないほうがおいしそうな気がするのですが
ーー鮮度の悪いまぐろよりもパックのスモークサーモンの方がおいしいそうに見えたりもするのでーー
「SUSHI」となると「トンノ」(イタリア語でまぐろ)を期待されることが多い国外、
いつも、やっぱりまぐろか、とあきらめ半分で赤黒トンノを買い求めます。

その赤黒いトンノもしょうがじょうゆにつけこんで、『ヅケ』にすると
身がしまってなかなかおいしいものです。午後から薄焼き卵を作って細く細く切って、
それからいんげんをゆでてななめに切って、すし飯を作って(米酢はないのでリンゴ酢で)、
準備ばんたん、後は実行委員たちを待つばかり。ルカだけでなく、子持ち主婦のルイーザも
やってくる予定です。

ルカが来るならワインを買っておかなければダメよ、とパオラが数日前に言っていたように
誰かを招待するなら「ワインなし」というわけにはいきません。
夏にぶどうの収穫を撮影したワイナリーのワインを1本用意しておきました。
これだから誰かをよんで晩ご飯をするのはイヤなのよね、とはパオラの言葉。お金はかかる、
シンプルでいいなんて口では言っていても、やっぱりごちそうが並べば喜ぶのがお客なのだから。。
ご飯を食べて社交をする社会もそれはそれでなかなか大変です。。

それにしたって、私はイタリア方式のお客招待なんて慣れていないのでなんだか緊張すること。
フォークを並べたりするのはいまだに順番がわからない、、。
約束の8時半になって現れたルカ、ルイーザとその友人のピーノと、
3人が石造りの階段を昇ってきた時にはああついにやってきた、と思いました。

いつもやっているようにやればいいんだよ、とは仕事でワインを売っているピーノの言葉ですが
そういえば日本で友達をもてなすときはどうやっていたんだっけ?たしかに場所は違っても
日本でやるのとイタリアでやることがそう違うわけではない、と少しほっとして、
後はまぐろのづけと錦糸卵とさやいんげんののったちらしずしを5人でわしわし食べて
わいわいとしゃべりました。切るのに時間がかかるんだろう、とか、どうやってこんなに細く切るんだとか、はしをみんなで操りながら、ルカもルイーザも、そしてお魚好きのピーノも、
ブオニッシモー、とてもおいしい、と
どんどん食べてくれて、ああこれで良かったんだなあ、と思ったのでした。

ちらしずし、じゃなくて「にぎり」を作ったほうがいい、と言われることもあるのですが、
私にとっては「ちらし」は家族のもので「にぎり」は外のもの、
外のカフェで頼まれてごはんを作るときでも自分で何かを催して
ごはんを作る時も「ちらし」で通すんだ、と心に決めているのです。
まあどっちにせよ「にぎり」はつくれないんですけどね。

すでにいい年であるルカもピーノもまだひとりもので、ピーノは時々さびしさをまぎらわせるために「ナイトクラブ」ーーいわゆる日本で言うところのクラブーーに行っているそうです。そのことが話題になり、まったくそんなところにいってお金を払っておしゃべりして、何をやっているのよ、
というルイーザの攻撃を受けて
話はまったくピーノには不利な向きとなりました。

チネマ・コルト・インブラ映画祭は4月21日に始まるため、ルカもルイーザもノミネート作品選考のラストスパートに入っています。階下に住むステファノ・サルドは自宅のテレビ画面で400本以上の作品を見ていたそうで、階上(私)では作品の編集、階下(ステファノ)では選考、というおかしな状況だったようです。

デザートタイムが終わって、さあ見よう、ルカ、ルイーザ、ピーノ、がソファにすわり、かぼちゃタイムが始まりました。何度も見たはずの同居人パオラも、「見れば見るほど ”ますさん” の柔らかさ(テネレッツァ)が伝わってくる」とのことで、飽きずに画面に見入っています。
日本に限らず、イタリアであっても、映画館は若者向けのものが多く、少数派や老人が見られる映画は少ない。
そんな状況の中、たとえ大多数の人に「つまらない」と言われようとも、ひとり、たったひとりパオラ・グリッジョが楽しんでくれればそれでいいような気さえしていた今日この頃でした。

それでも、ルカやルイーザが「うんヨロシイ」と言わないことには映画祭に招いてもらえないわけで・・。

15分が終わった後のルカのひとことは「ベッロ」、いいね、ルイーザは「カリーナ」かわいい、
(愛すべき、といったかんじ)、ピーノも笑っていました。
ベリッシモが最上級の美しさであるならば、ベッロは2段階目なのだけれども、ルカがベッロと言う時は本気でほめてくれている時なので、私には照れくさくうれしかったものです。
ステファノ・サルドとヴァレが見にきたときは、「カリーナ」、だいたいにおいて
「ますさんのかぼちゃ」は、「なかなかいい」小品にしあがったようです。

台所のワインに戻って、5人でまたぐびぐびと飲みながら、ルイーザはこういいました。
「生きてるってかんじかしら」
それに対してルカは「出会い方の問題だ」
84歳のおばあさんのうちに行って午後のひとときをかぼちゃの煮物ですごす、
「しゃべることもできるけれども、しゃべらないでいることもできる」
「しゃべる」ことが第一義とされるイタリアにおいて、
そういうコミュニケーションの仕方は新鮮なようでした。

ブラにしばらくいて気が付いたのは、みんなわいわいとよくしゃべるけれども、しゃべる量が多いわりに奥深い話が出てくることは少なく、腹で考えていることはなかなか表面に出てこないことです。

「私たちの方法は変わらなきゃいけないわよね」とルイーザが言い、
「でもそんなに簡単に変えられるものじゃないわ」とパオラ。

「出会い方」の問題におちがついたのは、
さびしさをまぎらわすためにナイトクラブに行くピーノが
「そんなこといったって、夜中の3時に84歳のおばあさんに電話して会いにいくことができるかヨ」
とのことでした。
それもまた一理あり。。

「出会い」が難しいのは日本であってもイタリアであっても(ブラであっても)同じであって
どこにいっても “さびしさ” はあるのだと思います。

それにしても、「かぼちゃ」の映画を「出会い方」の問題としてまとめてくれたルカには
なんとなく感謝で、やっぱりルカにも好いてもらえてよかった、とほっとしたのでした。

ワインをまたもう1本開けながら「字幕のリストと写真を提出してね」と言うルイーザに、
「でもまだノミネートされてない・・」と言うと、「今された」とのこと。
今回も2年前にひきつづき、参加させてもらうこととなりました。
こんなにすばやく決めていいのか、と言う私に「イタリア方式」と彼らは笑いました。

スシと映画をありがとう、と12時過ぎにようやく帰っていった彼等はこの後、
またおしゃべりをするためにどこかへくり出すに違いありません。

というわけで4月21日から始まる映画祭、あとは英語版の翻訳を作って、テープを新たに作って
提出するばかりです。
松戸市平賀の「ますさん」と、「かぼちゃ」に流れる包丁の音や、水の音、近所の犬や遠くの鳥の声、
全部が4月のブラの映画館に流れます。
私にとっては「ますさん」の映画である以上に、私の育った「平賀」の映画です。

3月29日、30日、一度帰国して港区愛宕山のチーズショップ「フェルミエ」さんで
「羊飼い」の上映会をします。
日本にはじめてチーズを輸入した本間るみ子さんのお店です。
少人数制なのですぐうまってしまうかもしれませんが、来たい人は申し込んでみてください。
もしあふれてしまうようだったら4月にこちらに帰る前にもういちどどこかで企画したいと思っています。
「羊飼い」の映像は今年9月に山に登って撮ったもので、山羊や羊のお乳が、水と火と土と手によってチーズになっていく過程がよくわかります。羊飼いの家族がとても美しく、見るたびに私も、彼らと出会ったことが不思議な気持ちになります。(http://info.fermier.fm 見てみてください。)

映画祭に来たい人は言って下さい。
ショートフェイルムフェスティバルらしく、開催中は「髪をショートにしよう」企画もあるとか、、
なんだか不思議なフェスティバルです。

髪の毛は既に短い、
脇山美伸より

フェルミエさん ーーーーーーーーーーーーーーー
3月29日(月)14時〜15時半
3月30日(火)19時〜20時半
定員:各14名
会費:3000円(チーズ、ワイン付き)
お申し込み:web@fermier.fm(ブラの羊飼い上映会係)
住所:東京都港区愛宕山1ー5ー3 愛宕ASビル
電話:03ー5776ー7772

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