書いてみましょうか
1週間に一回ぐらいがちょうどいいかしら、と思って
ためこんで書いていたのを、なおちゃんと国際電話で話していたら
「もっとちょこちょこ書いてみたら」とのことで、
も少しこまめに書いてみようかと思います。
でも今日だけだったりして。。
しかし、今日はマテオ(67歳)の記念すべき日なので、書いておいた方がいいかも。。
マテオは私に恋した67歳のおじいさんです。
おじいさんと呼ぶには67歳はまだ若いと私は思うのだけれども
マテオによると「ワシはもうとし」、明日には死ぬ、といつも言っています。
何年か前に奥さんを亡くしてひとりになったマテオは、絶望の日々を送っているのですが
朝はカフェでカプチーノ、昼は市の給食サービスを食べに集会所へ、
午後はおしゃべりをしにまたカフェへ、と日本の老人に比べたら社交の機会は多い生活を送っています。
そんなマテオと私はそのお昼ご飯給食サービスに私が顔を出した時に知り合ったのですが、、
何をどう間違ったのか、私のことが大変気に入って、毎日のように電話がかかってくるは、様々なプレゼントが届くは、大変な攻撃でした。
いつぞや山の温泉に行ったときは、マテオも私も風邪気味で調子が悪く、虫の居所が悪かったので、
あまりにも色々指図するイタリア人男のマテオに
「あんたの奥さんでも恋人でもないんだからほっといてよ!」と言い放って口げんかし、
その後無事に仲なおりしましたが、
今でもマテオは「ぼくらは口げんかまでしたんだ、はっはっは」とことあるごとにみんなに自慢しています。
イタリアでは、だんなさんと奥さんの愛情が深かった分だけ、残された方が苦しんでいるような気がします。マテオにいたっては精神的な支えであったマリア奥さんが亡くなったことで、全く指針を失ってしまったようです。
明るく、声も大きく、体格もいい、あだなが「フィオーレ(花)」の元パン職人、マテオですが、
10日間老人サークルに顔を出したかと思うと、10日間は家にこもる、という「うつ」状態らしく、
老人サークルの仲間たちも私に会うと「マテオは最近元気か、」と聞きます。。
そんなマテオが今日はがんばって私の仕事を手伝ってくれました。
上映会用の「羊飼い」の映像、チーズについての会話が山岳方言とイタリア語で話されているのですが、
私には全く手に負えないので、誰かに聞き取ってもらってそれを書き写しています。
階下に住む元高校教師のイレーネも、アイロンがけをしながらお茶をいれながら、耳にヘッドフォンをあてて必死で聞き取ってくれるのですが、全く疲れるらしく、ワンシーンやると「ふうっ」また明日、、ということになってしまいます。
ピエモンテ方言はフランス語とイタリア語が混じったような言葉で、表記するのも難しく、発音も言葉も標準イタリア語とは全く違います。
「カプラ(やぎ)」は「クラーベ」、「カッティーボ」(まずい)は「グラーメ」、おかげで私も少しづつピエモンテ方言をおぼえました。
マテオは全くのピエモンテ人なので、方言については問題ないのですが、
会話の聞き取りなんて息が切れる仕事を頼んでいいものかなあ、と思いました。
かといって、若い人やイレーネのような主婦はみんな忙しく、あまり時間のかかることも頼めません。
というわけで、「わしはもう何もしなくなった。。」とぼやくマテオに白羽の矢が当たったわけです。。
マテオ行きつけのカフェ「バルバブルー」に、夕方5時半待ち合わせるとマテオはもうチョコレートミルクを飲み終わって、1時間ほど時間をつぶしていた後だったらしく、
カフェの主人、エンリコがお待ちかねだよう、とからかいます。
エンリコはこれもまた変わり者で、50代半ばのくせにいつでも「今晩踊りに行こう」と私に冗談を言います。
チーズが浮かび上がる、子供が火をおこす、羊飼いの奥さんがだんなさんとのなれそめを話す、
全部のシーンを「ほっほー」とビデオカメラの中の映像をのぞきこみ、
「“スクルットーレ”とは木や石で何かを作るような人たちだ」ーーつまり彫刻家のことーーと私のわからない言葉は説明し、
「ノ・ン・プリ・オーキュ・パル・ティ!」といち音いち音私が書き取れるよう発音し、
疲れたらまた明日にしよう、という私の言葉も聞かず、全部のシーンを見ておおまかに言葉を起こしてくれたのでした。
途中でアペリティーボ(食前酒)の時間になり、人が入ってくると
「もっと静かなところじゃないと聞こえない」とヘッドフォンを頭にぼやいていましたが、
バルバブルーは街の中心から少しはずれにあるので、そうさわがしくもならず、
途中で私たちもノン・アルコールのアペリティーボを飲んで、夜7時半、全て終えました。
めでたしめでたし、後1週間はかかるかと思っていた聞き取りが、だいたいのところ終わったので
ちょっとうれしかった夜です。
それにしてもマテオは「こういう仕事は好きだ!子供に返ったような気がする!」
と言い、どういう意味?と聞き返すと「やったことがないことをするとわくわくする!」
とのこと。
「死んでしまったマリアのことを考えると脳が破裂しそうになる」という重い心理状態の中にいるマテオも、こういう気持ちになる時があるのだなあ、少なくとも一瞬でも、、
と思ったのでした。
帰ってきて、マテオの状態を知っている同居人パオラにそのことを話すと
「ついにマテオが登れる階段を見つけたわね」と。。
パオラ自身のお母さんも一人暮らし、やはりだんなさんを早くに亡くして
「ディプレッション」(うつ)になっています。
イタリアの老人問題はなかなか深刻なものがあります。
マテオが特別不幸なわけではなく、また特別幸福なわけでもなく、当たり前ながら色々な例があるのですが、3歩歩けば老人にあたる、というほど老人が多いブラ、これから日本以上に先が厳しいかも。。
なぜか今日は、会ったこともないマテオの息子さんまでからすてきなボールペンのプレゼントをもらいました。
「プラスチックのボールペン(日本の4色ゼブラ)を使っているミヌ(私の名前の短縮形)に、
せめてこのペンで書けば見た目が美しいだろう!」とのことでした。。
マテオはとっても見た目にうるさいんです。。